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自然と挑戦が育む幼児の力|印南幸恵さん

必死の思いで園の経営を受け継ぐ

次男が通園中、保護者として役員を務めていた印南さん。そんな折、高齢になった園長の引退の話が持ち上がる。後継者不在の中、「こんな良い環境で保育している場所が他にはない。園には歴史もある。この園をなくすのはもったいない」という保護者の声が多数上がった。

そこで印南さんを含む3名が一般社団法人紡ぐ手を設立。2023年度より園の運営を引き継ぐことになる。

しかし、その道のりは決して平坦ではなかった。まず取り組んだのは、自治会館から借りている園舎と、幸神神社から借りている園庭の継続使用許可を得ること。一時は園の土地を更地にする話まで出たという。

「卒園した子どもたちが帰ってこられるように、お母さんたちが大好きなこの園を守るために」。その一心で交渉を重ね、ようやく契約にこぎつけた。

「自然保育 森の幼児園」の園舎。木造で落ち着いた雰囲気

土地の使用許可は下りたものの、築70年の園舎の補強工事が条件として出される。資金集めのため、クラウドファンディングを実施。600万円の工事費用を集めることに成功した。

現在、2〜6歳の園児11名が通う。認可外保育施設のため国や都からの補助金はなく、保護者からの月謝のみで運営。保育士3名と運営者が付き添うかたちで日々の保育を支えている。

厳しい状況の中、印南さんは「時代に流されずに、昔から変わらない園の教育を守ること」を目標に掲げる。遊具やおもちゃをほとんど置かず、園児が自ら工夫して自然をおもちゃにする。そんな園の方針を守り抜く決意だ。

運営に携わって気づいた「挑戦する子どもたち」

運営者として園児の教育に接する中で気づいたのは、厳しい教育方針に、子どもたちは意外にもすんなりと馴染んでいくということ。

「不思議なことに、子どもって厳しいのが好きなんですよね。怖がって行きたくない、なんてならないんです。保育士のこともみんな大好き。おそらく信頼関係があるからでしょうね」

園では、子どもたちが包丁を持ったり、かまどの火をつけるためにマッチを擦ることもある。「かまどの当番をしたいからと、朝一番に来る子もいるんですよ」と印南さん。

かまどを使ってお昼ご飯を作る園児たち

お山登りは10km、卒園登山の日の出山は標高約1000mと、大人でも楽ではない距離だ。それでも園児たちは徐々に距離を伸ばし、登れるようになっていく。

「苦しいときは園児同士で励まし合って乗り越える。そうやって自然と優しさも身についていくんです」

最後に、印南さんが最も思い入れのある行事を聞いてみた。

「クリスマス会ですね。キリストの生誕劇を毎年行うんです。衣装も同じものを使い続けて。人数が少なくて役が足りなくなることもありますが、先生方が工夫してくれています。これからも大切にしていきたいですね」

自然の厳しさを肌で感じながら自分の力を信じること。挑戦すること。友達への思いやりを大切にすること。そんな森の幼児園と、園を守る印南さんの想いが、取材を通じて強く伝わってきた。

【プロフィール】
印南幸恵(いんなみ・ゆきえ)
東京都小金井市出身。2023年より、一般社団法人紡ぐ手代表として、認可外保育施設「自然保育 森の幼児園」の運営に携わる。

(2024年6月 インタビュー 足立愛子)

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この記事を書いた人

ライター、インタビュアー。国際基督教大学(ICU)卒業後、NECへ入社。政策渉外部へ配属され、中央省庁を顧客とし、国家予算を使った大規模プロジェクトの調整役として関与。その後、人材開発サービス事業部へ移動し、研修企画や運営設計に携わる。2022年に品川区から『東京山側』へ移住し、兼ねてからの夢であったライターへと転身。都内研修企業オウンドメディアの記事執筆、地域新聞社での記事執筆、NPO広報誌の記事執筆、『東京山側』で地域課題解決に従事する方へのインタビューなどを行っている。

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