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沈金に「いのち」を刻む|沈金師・春日友子さん

沈金との出会い

春日さんは、いかにして沈金と出会ったのか。大学受験当初は東京芸術大学の工芸科を志していたが、金沢在住の姉からの勧めで進路を変更。石川県立輪島漆芸技術研修所へ進学した。研修所で漆芸の基礎をひととおり学ぶ中、沈金には惹かれるものがあった。

「完成した漆に直接ノミを入れる。やり直しの利かないその緊張感に、心が躍った」。そう語る春日さんは、「彫った後に沈金クズが出ることで制作を進めた成果が目に見えることも、せっかちな私の気質にぴったりだった」とほほえむ。対して蒔絵は、漆の乾燥を待つ工程の連続。「私には待つことが難しかった」という。

沈金を学ぶ過程で出会った先生や同期たちとの時間も、かけがえのない財産となった。担任を務めてくださった年に重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された前史雄先生との思い出は、今も鮮やかだ。コーヒー通の先生に祝杯をあげるため、生徒たちでお金を出し合って輪島一の高級豆を贈ったこと。ドライブ好きな先生の愛車でスケッチに出かけた風景。「研修所では楽しい思い出しかないです」と、春日さんは弾んだ声で語っていた。

《夕凪》。第22回日本・フランス現代美術世界展入選作。石川県立輪島漆芸技術研究所時代に連れて行ってもらった日本海の風景。荒々しいと思われがちな海の様子ではなく凪の風景を彫った。(撮影:小山内祥司氏)

2024年、能登半島地震で被災した石川県立輪島漆芸技術研修所は、多くの支援を受けて同年10月に再開を果たした。

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この記事を書いた人

ライター/企業広報。1995年生まれ。国際基督教大学(ICU)卒業後、NECに入社し、政策渉外部を経て、人事部門で研修企画に携わる。2022年、品川区から東京都あきる野市の山のふもとに移住。移住を機に退職、フリーランスとして活動を開始。
現在は、大手企業のオウンドメディアやNPO広報誌の執筆、企業のSNS運用を手がける。また、西多摩地域をリブランディングした『東京山側』地域におけるライターとして、地域でソーシャルアクションを展開する人々の声を発信している。
地域課題の解決に取り組む人々や、文化芸術に携わる方々の想いを丁寧に紡ぎ出し、温かみのある文章で伝えることをモットーとしている。伝統芸能・工芸、アート、福祉、自然、多文化共生、読書などの分野に関心を持ち、取材活動を行う。

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