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沈金に「いのち」を刻む|沈金師・春日友子さん

沈金に宿るいのち

八王子で生まれ育った春日さん。幼少期は空き地での遊びや愛犬との暮らしを通じて、自然や動物との深いつながりを育んでいった。「小学生から中学生にかけては、動物園の飼育員に憧れていました」。子どもの頃に培われた生き物への愛着は、現在の創作活動にも色濃く反映されている。

作品のモチーフに動植物が多いのは、意図的な選択というよりも自然な流れだという。心に浮かぶイメージを追うと、おのずと生き物たちの姿にたどり着くのだ。

犬との笑顔の一枚。(本人提供)
《煌~きらめき~》。第19回日本・フランス現代美術展入選作。(撮影:小山内祥司氏)

時の流れそのものを作品に織り込んだ《己》は、創意あふれる表現を追究した作品だ。ミミズクの羽に施された銀粉は、歳月とともに色味を変えていく。「漆工芸である沈金の作品は、10年、100年と生き続けるんです」と春日さんは語る。

《己》を抱える春日さん。(本人提供)

「同じ作家の手によるものとは思えない」。《己》と《鏑木清方作「一葉女子の墓」一部模写》を見た人々からのこの言葉は、春日さんのゆたかな表現力を如実に示している。

《鏑木清方作「一葉女子の墓」一部模写》(撮影:小山内祥司氏)

「作品を見る人に対して、『生きてほしい』し、生きるということを感じ取ってもらえたらいいなと思いながら制作しています」。このような願いは、輪島漆芸研修所の研修生時代から、いや、大学受験期からずっと春日さんの創作の核となってきた。作品を通じて生きることの実感を伝え、見る人の人生を後押ししたいという想いが伝わってくる。

このメッセージへのこだわりは、春日さん自身の経験に裏打ちされている。かつて創作に没入するあまり、自身を追い込みすぎてドクターストップを受け、7年もの活動休止を余儀なくされた経験を持つ。命を削るようなストイックな制作姿勢だからこそ、生きることへの鋭敏な感性が育まれたのかもしれない。

ただし現在は、「自分のペースをつかんで制作している」と語る春日さん。その表情には穏やかな笑みが浮かんでいた。

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この記事を書いた人

ライター。1995年生まれ。国際基督教大学(ICU)卒業後、NECに入社。政策渉外部で中央省庁との橋渡し役として国家プロジェクトに携わる。人材育成への関心から人材開発サービス事業部へ異動し、企業研修の企画・運営に従事。2022年、品川区から『東京山側』への移住を機に、取材・執筆活動の幅を広げる。現在は、都内研修企業のオウンドメディアや NPO広報誌の執筆、SNS運用を手がける傍ら、『東京山側』を舞台に、地域に根ざしたソーシャルアクションを展開する人々の声を届けている。
まちに息づく人々の営みや想いを丁寧に紡ぎ出すことを大切にし、温かみのある文章で読み手の心に寄り添うストーリーテリングを心がける。興味関心は、地域・移住、伝統芸能・工芸、アート、本、多文化共生、福祉、教育など、人と社会の豊かな繋がりを紡ぐ領域に及ぶ。
Writer. Born in 1995. After graduating from International Christian University (ICU), joined NEC Corporation. Worked in the Government Relations Department as a liaison with central government ministries on national projects. Driven by an interest in human resource development, transferred to the Human Resource Development Services Division, where I was involved in planning and managing corporate training programs. In 2022, relocated from Shinagawa Ward to "Tokyo Yamagawa" area, expanding my scope of writing and reporting activities. Currently, while writing for owned media of Tokyo-based training companies and NPO newsletters, as well as managing social media, I document the voices of people engaged in community-based social action in the "Tokyo Yamagawa" area.
I take pride in carefully weaving together the lives and aspirations of local communities, striving to create storytelling that resonates with readers through warm, empathetic writing. My areas of interest span domains that foster rich connections between people and society, including community development and migration, traditional performing arts and crafts, art, books, multicultural understanding, welfare, and education.

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