東京都あきる野市にてハンディキャップを持つ子どもたちへの支援を行う立石駒子さんにお話をうかがいます。本インタビューの内容は、二本の記事にて連載します。前編では、立石さんが代表を務める発達に援助を必要とする子の親の会「mama はぐ」、および、「mama はぐ」とは別の新事業として2024 年1月より開始した、アートを楽しむことができる絵画造形教室「アートどころ pomme」についてお伝えします。
お母さんたちが悩みを共有できる場を
―立石さんは発達に援助を必要とする子の親の会「mama はぐ」の代表を務めています。どのようなきっかけで、障がい児とその家族の支援にかかわるようになったのですか。
私も障がい児の親だったのです。息子が 0 歳のときにダウン症と診断されました。そこで、ハンディキャップを持つ子どもと家族の団体「あきる野 able」に参加するようになりました。
「あきる野 able」では、子どもに活動提供をしたり、家族同士での情報交換やきょうだい支援、そして、子ども同士の交流を深めることができます。とは言え、当時私の息子は生まれて間もなかったため、活動にはまだ参加できませんでした。さらに、その時期は私自身が子育てに精いっぱいで、子どもの体験というより子育ての悩みを他の親御さんと共有したいという思いの方が強かったのです。そんなとき、「あきる野 able」のなかで、未就学児を持つ親を対象とした、「mama はぐ」の前身となる「able ジュニア」が発足しました。
次第に「able ジュニア」への参加者が増えていき、「あきる野 able」から独立したかたちで活動が始まり、団体名を発達に援助を必要とする子の親の会「mama はぐ」へと改称しました。
―お母さんたちがハンディキャップを持つお子さんの子育てに悩む状況を良くしたいという思いにより「mama はぐ」が設立されたのですね。「mama はぐ」では、どのような活動をするのですか。
「mama はぐ」では月に一度、お母さんたちが集まり、子育てにおける悩みを打ち明けたり、情報交換をしたり、気軽に愚痴を言い合ったりと、特にテーマや決まりは設けず、何でも話し合っています。
「mama はぐ」に来るお母さんたちの多くは未就学の子どもがいる方々ですが、対象者を厳密に区分はしていません。当初は未就学のお子さんをお持ちのお母さんに限定していましたが、近頃は子どもの就学以降も「mama はぐ」に参加したいというお母さんが少なくないのです。子どもが小学生以上になると、お母さん同士をつなげる先が減ってしまうため、最近の「mama はぐ」はそのようなお母さんたちのコミュニティにもなっています。
ちなみに、「mama はぐ」という名称ではありますが、お父さんも参加できますし、過去には参加くださっていたお父さんもいました。
―お母さんたちの育児の負担や孤立感は相当なものなのですね。「mama はぐ」では、どういった悩みの声が聞かれるのですか。
私がこれまでお話をお聞きしてきた方々を見ていると、ハンディキャップを持つ子どもの育児の負担はお母さんに集中してしまっているという印象があります。
「就学先をどうやって選べばいいか」と頭を抱えていたり、「障がいがあるという診断がショックで」などと障がい受容について悩むお母さんが多いです。反対に、なかなか診断がつかない辛さも皆さんから多く聞きます。
就学先については、特別支援学校か普通学校か、普通学校であれば普通学級か通級指導教室もしくは特別支援学級というように、数ある選択肢の中から決めなければなりません。
障がい告知についてよくあるのですが、子どもに障がいの診断が出るとお母さんはほっとする一方でショックも大きい。そんなときに「mama はぐ」の仲間がいることで、勇気づけられることが多いようです。障がいの診断時期について、ダウン症などは生まれてすぐに診断が出ることが多いのですが、自閉症の方などは 2-3 歳にならないと診断が出ない場合があります。お子さんと過ごす時間はお母さんの方が長くなる傾向があり、その分お子さんのこともよく見ており、お子さんがまだ小さい時期で診断が出る前に、障がいがあるのではと気づき始めます。心配になり配偶者や親に悩みを打ち明けても、「みんなそんなもんなんじゃない?」「育て方がよくないのでは?」などと言われて、お母さんが傷つく。障がいの診断が出る前から、お母さんたちは一人で問題を抱えてしまうのです。
―発達に支援がいるお子さんがいると時間的にも精神的にも負担が大きいと思われますが、どのように「mamaはぐ」の運営をしてきたのですか。
「mama はぐ」の設立当初は、代表を持ち回りで担当していました。しかし、未就学の子どもがいるお母さんが代表として活動するのは難しい。そこで、持ち回りではなく代表を固定することにし、子育ての大変な時期が落ち着いてきた私が代表に就きました。
「mama はぐ」の運営にあたり、私一人では不安もあったので、障がい者福祉の事業所である「秋川流域生活支援ネットワーク」の相談支援専門員であり当事者家族でもある職員の方に一緒に運営に携わっていただき、お力添えいただきました。
さらに、「mama はぐ」の会場には、子ども家庭支援センターの会議室を使用させていただけるようになりました。結果、子ども家庭支援センターや母子保健の職員のみなさまにも、「mama はぐ」の存在を知っていただくことができました。
「秋川流域生活支援ネットワーク」や行政のおかげで、ありがたいことに「mama はぐ」の認知度は高くなってきています。最近は、子ども家庭支援センターなどを通じた紹介が増えています。
おしゃれな空間でだれもが創作を楽しむ「アートどころ pomme」
―立石さんは「アートどころ pomme」という、臨床美術を取り入れた絵画造形教室を始めます。始めるきっかけについて教えてください。
息子が臨床美術を取り入れた絵画教室に通い始めたのがきっかけです。その教室の先生がとても素敵な方で、子どもたちがのびのびと美術を楽しんでいる姿を見るうちに、私も臨床美術に興味を持ちました。
また、私は作業療法士として、20年ほどリハビリの一環で創作活動を行っていました。趣のある字や絵が素敵だなと思うことが何度もありました。そういった経験により、絵画やモノづくりのような好きなことで交流できる空間を作りたいという強い思いにつながっていきました。
―「アートどころ pomme」では、絵を描くときに臨床美術を取り入れるそうですね。どのように絵を描いていくのですか。
臨床美術では、描く対象を五感で感じたり、想像をしてから描いたり作ったりするという、特殊な方法を用います。基本を学ぶときによく使われるりんごを例にお伝えしていきますね。
まず、りんごを手に持ちます。そして、じっくりと見て、重さを知って、味わってみる。さまざまな方向からりんごを切って中身までよく見る。五感でりんごを十分味わってからようやく、絵を描いたり粘土などで形作っていくのです。
描き方についても、りんごを線で描く一般的な方法とは異なるので、私自身もはじめは普通と違う描き方に「面倒だな」と、軽いストレスを感じました。ついつい、左脳でシンボル的にりんごを描こうとしてしまうんですよね。
ただ、五感を使って手を動かしていくうちに、没頭している自分にふと気づきます。このように、軽いストレスを超えて創ることに集中するというのが、右脳が活発になっている状態といえます。
臨床美術はアートセラピーとも言われていますし、ストレスから解放されて創作に集中できる状態をぜひ色んな人に味わってもらいたい。体験してもらうことが大切なので、「アートどころ pomme」では技術的に上手く描くことを目的としてはいません。気持ちが乗らなかったり体調が優れずに絵を描ききれなくても、創っていると実感しながら自分の表現をしていけば良いのです。
―作品の上手下手ではなく、五感を通して無理せず集中していくことが大事なのですね。「アートどころ pomme」でほかにも工夫されたことがあれば教えてください。
「アートどころ pomme」のアトリエがクリエイティブでおしゃれな空間になるようにしました。
今後の展開として、リフレクソロジーやネイルをやっている知人と協力し、開催日時によっては、子どもが絵を描いている間に母親はリフレクソロジーやネイルを受けられるような企画も考えています。
また、絵を描いたり造ったりする場としてのみならず、「アートどころ pomme」を通じてアートの才能を発掘できると嬉しいなとも考えています。
「アートどころ pomme」の開講情報
開校日時 | (1)月・水・金: 1 日 3 回のクラス。各定員4名。 ・10:30~12:00 ・14:30~16:00 ・16:30~18:00 (2)火・木: 基本的にはクラスはお休み。 祝日の振替日としてクラスを行う場合もあり。 ※開講しない場合、「mama はぐ」のようにお母さんがいつでも来られる場所を提供できるよう検討中。 |
対象者 | 対象年齢は不問。 |
月謝 | 8,000 円。 |
問合せ先 | 042―800―2626 artdokoro.pomme@gmail.com @artdokoro_pomme |
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