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常識にとらわれない発想で救助業界に旋風|八櫛 徳二郎さん

地域のつながりと防災

防災関連でつながった方に誘われて始めた菅生歌舞伎。

――八櫛さんが2023年に設立した「一般社団法人 西多摩減災・防災ネットワーク」では、あきる野市を中心とした西多摩地域の防災計画を作成しているようですね。

作成には関わっているのですが、地域の団体に出向いて私がやることは、地域の方々が防災計画に向けて集まって話したり動き出したりするきっかけ作りをお伝えすることです。「みんなが意見を言わなかったらどうしよう」という方には、「大丈夫、みんな意見言わなかったら私が意見言うから大丈夫ですよ。やりましょう」と、早く動き出す感覚を伝えています。実際、一度動き出せば、どんどん情報整理されていくので。

ある町会では、3回勉強会やってここまで出来上がっています。これがまとまりかけている防災計画(以下の写真)です。2023年の一年間では完成しなかったのですが、2024年度に作るべき箇所は決まっていて、完成まで見通せています。

私がお伝えしていることは、たとえば、「一般的にはこういう班編成がありますがどうですか」と私が聞いて、皆さんが自分で「こういう班があったら、いざというとき楽じゃないか」などと話しが進んでいきます。そうして、それぞれの班で、何を行動したらいいのかをブレーンストーミングして、アイデアを出して、「普段はこういうことをやって、災害が起きたらこういうことやろう」みたいな感じで作り上げていきます。

町会や自治会ではあらかじめ避難所を作っておいた方がいいのではないか、といったアドバイスをすることもあります。身もふたもない話ですが、私自身被災地を見てきて、指定避難所、緊急避難場所に人が殺到してしまうことが少なくないということが分かっていますから。

――西多摩地域の減災防災の機運は高まっていると言えそうですね。

そうですね。あきる野市を中心に、防災の機運は間違いなく高まっています。2023年の一年間で、45もの町内会と関わりました。内訳としては、45町内会のうちの40町内会ぐらいがあきる野市ですかね。あとは、八王子、昭島、福生、瑞穂などが1町会ずつ。特に、あきる野市の機運は高まっているので、今後3年間で、あきる野市の全町内会自治会の防災の相談を受けるところまで進めたいと考えています。あきる野市には、現在87あり、一年で40ぐらい関わったわけですから、3年あれば達成できると見込んでいます。そして、あきる野市を中心とした減災防災活動を一冊の本にまとめる予定です。町内会自治会主導で、減災防災をこれだけ盛り上げてやっているという、自助共助の成果を本にして。誰にでも見えるようなかたちにして、そこから、周りの市町村とも協力していければと考えています。

――町会や自治会を通して減災防災の活動をする意義について、もう少し詳しく教えてください。

町内会自治会の存在意義が、昔とは変わりましたよね。昔は、町内会自治会に関わりがないと、役場からの情報も下りてきませんでした。だから、町内会自治会を通じて近所の人と関わりがないと生活する上でも不都合があるわけなんですよ。地元で生きていくために効率的に情報を取るのが、町内会自治会の大きなメリットだったんですよね。

現在は、スマートフォンからいくらでも情報を探せるので、若い親御さんなどは、町内会自治会と関わってなくても、困らないわけです。世の中が変わったことにより、町内会自治会がほぼ減災防災のために存在していると言ってもいい状況になりました。自治会や町内会に入るか入らないは、個人の自由にゆだねられるべきでしょう。しかし、町内会自治会に関わってないと災害があったときにとてつもなく損します。自治会町会に関わってなかった人は、私が被災地で救助活動をしていても、間違いなく損しています。みんな後悔していますよ。町内会自治会に関わっていればよかった、もっと仲良くしてればよかったって。

本当のことを伝えてはいけないんじゃないかとか、被災地の人がかわいそうじゃないかとかで、災害現場で現実に起きている本当のことは外に出てこない。

たとえば、地震で自分の家が潰れたとしましょう。自分の子どもががれきの中にいます。119番しようとしたら電話もつながらない。街の人に声かけようとしたらみんな大変そうで、どうしようもない。倒壊した家のがれきは、自分の手で持ち上がらない。中から、子どもの声が聞こえる。どうしたらいいんだ、どうしたらいいんだと言っている間に6時間経って子どもの声は聞こえなくなりました。2日経って3日経ってやっと消防が救助に来ました。被災地では消防隊員3,4隊で何百ヶ所って見るから、必死になって活動しても時間がかかってしまう。しかし、いざ助けてもらったらもう亡くなっていました。それが現実なんですよね。

実は、パッと見たら、子どもたちを助けられる道具をあなた(インタビュアーの足立)でも10分あれば30個集められますよ。何だと思います。車のタイヤ交換するジャッキです。車って大体タイヤ交換するパンタグラフジャッキが乗っている。窓の向こうの駐車場に車が何十台もあるじゃないですか。「すいません。家がつぶれちゃっているんで、その車のジャッキを貸してください」と声をかけて回ればバッと集まります。「はい、ちょっとだけ上げてちょっとだけちょっと上げて」って2人くらいでジャッキをカリカリカリカリ動かしていれば、簡単に出せるんですよ。

車のジャッキ

簡単なことですけど、知っているか知らないか。このように話してしまうと、ジャッキでの救出方法を知らなかったから、倒壊した建物の中にいる家族を助けられなかったということを明らかにしてしまう。けれども、伝えなければ伝わらないんですよ。「まるで知識がなかったから殺しちゃったと責めているように聞こえるから、公で言ったらかわいそうなんじゃないか。伝えるのをやめよう」などと言っていたら誰にも伝わらない。それを私は言っちゃう。そこが自分を批判する人がいる部分かもしれないけど、それはもう現実はしっかりと伝えないと。

――私自身自治会や町会の役割は聞いたことがある程度で、身近な人を自分で救出する方法についても知りませんでした。防災についてもっと知らなくてはならないなとハッとしました。

知らないことが悪いことではありません。人は、経験してないことは理解できないんです。経験してないからいまひとつ理解できない。いかに補うかといったら、過去にあった事実を知る人がリアリティある状態で伝えて、理解するしかないんですよね。それを始めたのがあきる野での体験型防災訓練です。

――八櫛さんが地域に向けて行っているのは、自治会町会に向けた防災計画と一般向けの体験型防災訓練という理解でよろしいでしょうか。

はい。2023年の1月から3月で体験型防災訓練を開催して、減災防災への機運が高まって、防災計画の作成につながりました。
まずは、2023年に実施したように、少人数で1回体験型防災訓練を行って、2年目は、「面白いから行ってみよう」となって、人数の多い体験型防災訓練を実施する3年目で、町会の具体的な防災訓練というか防災計画など。町会の具体的な備蓄品を整えるなど「何か考えよう」となるように3年計画で町会の人たちには紹介しています。

ちなみに2023年はあきる野市のある地域で、市民300人以上が参加する大規模な防災訓練を実施することができました。

行政にとっての「まちの電気屋さん」になる

――八櫛さんが民間で自助共助を高めていらっしゃることが分かりました。公助についてもうかがいたいです。

まず一般的に言われているのが、行政は震災発生後4日目になってやっと手助けができる状態になるということ。震災報道を見て分かるように、3日間は来られません。能登半島の場合は、半島という立地もあり、行政から市民に対する手助けは5日間来られず、6日目あたりから充実しました。

減災防災は、誰もが経験してないわけで、市役所の人も経験していない。市民も経験してない。その代わり、いざ起きたときには命の駆け引きが発生するとても内容の濃いもの。なんですけど、専門家ではない市役所の職員の方々が対応しなければいけないっていうのが今の環境です。

たとえ話なのですが、仮に市役所のどこかで漏電しているとしましょう。電気屋さん頼みますよね。それは電気屋さんという頼める相手がいるから可能になっています。減災防災にも、頼むことのできるプロがいて、電気工事のように外部のプロに依頼できれば、防災について専門家ではない方々が、市民の安全を守るための仕事をしなきゃいけないという負担が減ります。私たち減災防災のプロフェッショナルが専門家として、「電気工事は電気屋さんに頼む」というのと同じような感じで、役に立てればと考えています。


八櫛さんは「救急隊‧救助隊がすぐに来れない地域で命を守る!」を掲げ、
野外救急法の国際基準資格ができる講習会場を整備するためクラウドファンディングを実施中です。

(2024年3月 インタビュー 足立愛子)

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この記事を書いた人

ライター、インタビュアー。国際基督教大学(ICU)卒業後、NECへ入社。政策渉外部へ配属され、中央省庁を顧客とし、国家予算を使った大規模プロジェクトの調整役として関与。その後、人材開発サービス事業部へ移動し、研修企画や運営設計に携わる。2022年に品川区から『東京山側』へ移住し、兼ねてからの夢であったライターへと転身。都内研修企業オウンドメディアの記事執筆、地域新聞社での記事執筆、NPO広報誌の記事執筆、『東京山側』で地域課題解決に従事する方へのインタビューなどを行っている。

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