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常識にとらわれない発想で救助業界に旋風|八櫛 徳二郎さん

完璧な「ログハウスと訓練場」

――あきる野市にはいつ移住なさったのですか。

あきる野に住み始めたのは、2011年です。

――あきる野市に決めた理由は何ですか。

自分も住みながら訓練場を作れるようなスペースの土地を探していました。たまたま不動産屋さんに案内してもらって、牛沼にあるいきいきセンターの下の土地を訪れて。見たときに、敷地の広さや形状が「これだ、完璧だ」と思いました。何か運命的なものですね。

東京消防庁に勤めながらプライベートで活動していた勉強会では、兵庫県の大きな防災センターの訓練場をお借りして、地震が起きたときに倒壊した建物に生き埋めにされた人をどう安全に救出するかという技術を標準化するための訓練をしていました。訓練を行ううちに、勉強会は、訓練場での訓練をすることが活動のメインになりました。訓練場をお借りして実施するのは、日程調整が難しいこともあり、自前の訓練場が欲しかったんです。それで、自宅の敷地内に訓練場を作ることにしました。

――あきる野で見つけた土地のどのような点が完璧だったのですか。

好奇心から、自分でログハウスを建てたくなってしまって。好奇心が湧いてくると止められないんですね。ログハウスは、耐震の関係で、丸太と丸太の壁の間は6メートルが最大だと決まっています。7メートルになると、間に1枚壁を入れないといけない。つまり、6メートル横12メートルが一番内部空間を効率的に使えるんですよ。さらに、ログハウスの定番として、傾斜地に立てて、深い基礎の方を物置にするというのもあります。あきる野の不動産が案内してくれた土地は、縦15メートル横25メートルでした。15メートルの幅だと、6メートルのログハウスを建てたときに両サイドに4~5メートル空きます。自宅を囲むように、幅4メートルにして訓練場を設けることができます。ログハウス自体が裸木造なので、1階で3メートル、2階で5メートル、隣地境界線から離さなきゃいけないんですよ。だから、ログハウスを真ん中に立てて周りを訓練場にするっていうのは、私のログハウスと訓練場を作りたいという気持ちと合致しているわけです。15メートルより大きい土地だとお金もかかるし、無駄。土地って高いから。もう漫画のように、理想としていた大きさの土地、測ったように同じ大きさのスペースがあるのだなと。

――ぴったりの大きさの土地があることもすごいのですが、手ずからログハウスを建ててしまおうという発想に驚きます。ログハウスを建てる様子を日記として公開していますが、相当な人数をかけて建てていますよね。

最初は結構手伝いに来てくれたのですが、途中からあまり手伝い来てくれなくなっちゃって(笑)。ですから、ただひたすら一人で黙々と。最後の屋根を張るときには「もうやめよう」なんて思いながらも、建ててしまっている以上、やめられなくて。

最近、自宅近くに事務所を設立しました。自前の訓練場も併設していますし、趣味のバスケットボールができるようコンクリートを敷く工事もしました。

なぜ災害が「怖い」のか

――八櫛さんは楽しそうで、聞いているこちらまでわくわくしてきます。怖いものはないんですか。

逆に何か怖いものが出てこないかなというのはありますよね。最近怖いものがなくて。

――私などは、(2024年1月1日に発生した)能登半島地震の震災の報道を見ているうちに辛くなってしまって。

昔から思っているのですけど、あきらめられないから怖いんですよ。死ぬときは死ぬからしょうがないなと思ったらもう怖くないですよ。ただ、リアルにそうならないようにはどうしたらいいのかな、準備すべきことは全部あげてみようと思うことは大切ですね。100個挙げる。次に、100個はできないからその中で重要なことはどれかなと優先順位をつけて重要な20個を身につけよう。そうしたら、自分が危なくなる可能性は激減したな。そうなってくるともう怖くはない。考えてない人と比べると相当安全です。逆にその人たちよりももっと危ないところに行ったとしても、はるかに安全。

私自身も多分、怖いって思う瞬間くらいはあるんだと思います。でも、「どうして怖いんだろう」って分析して、「怖くなくするためには何が必要なのだろう」と考えて準備をすぐにしちゃう。怖いって考えている時間を作らない。だから、怖くないのですね。人は不安や恐怖で能力を発揮できなくなるんです。逆を言うと、不安や恐怖を減らせば能力を発揮できるようになる。

私は能登半島地震のような震災救助に駆けつけたり、地域の防災の講演で多くの人と会話をするのですが、「能力を発揮しやすい状態の作り方をもっと早く知っていればよかった」とのお声がけをいただいたり、メンタルヘルス関連の質問を受ける機会が増えてきました。そこで、2024年3月より、「マンパワー開発研修」というメンタルヘルスに関する研修事業も開始しました。

――怖さをなくすために必要なことを論理的に考えていらっしゃるのですね。先日の一般向けに開催された減災防災の体験講習会(2024年2月23日「あきる野マチづくりダイアロ〜グ」)で八櫛さんから防災の話を聞いた方から「黒い袋と、可能なら浄水器さえあれば大丈夫という話を聞いたら、前向きな気分で準備できるようになった」と聞きました。防災にもつながる話なのですね。

なるべく感情に支配されないようにはしていますね。そんなかっこいいものではないのですが、感情に支配されてしまうと、好奇心で何かをやりたいっていうところにブレーキがかかってしまうから。自分の大本(おおもと)は、好奇心が出たものは楽しく経験したいということ。その邪魔になる不安や怖さを感じたときに、ネガティブな感情で自分の行動にブレーキがかかってしまうと、体験したいことが体験できなくなる。だから、いち早く自分が自分のやりたいって思ったことを体験するには、なぜそれが不安に思うのかを調べて解決しちゃいます。

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この記事を書いた人

ライター、インタビュアー。国際基督教大学(ICU)卒業後、NECへ入社。政策渉外部へ配属され、中央省庁を顧客とし、国家予算を使った大規模プロジェクトの調整役として関与。その後、人材開発サービス事業部へ移動し、研修企画や運営設計に携わる。2022年に品川区から『東京山側』へ移住し、兼ねてからの夢であったライターへと転身。都内研修企業オウンドメディアの記事執筆、地域新聞社での記事執筆、NPO広報誌の記事執筆、『東京山側』で地域課題解決に従事する方へのインタビューなどを行っている。

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